今井むつみ『英語独習法』(岩波新書)を読んだ

なぜこの本を手に取ったか

twitterで読もうかなと、つぶやいている人をみて、この本が出ることを知った。もともと同じく岩波新書の『学びとは何か』や『ことばと思考』を読んでおり、信頼できる認知科学者から英語学習法についての本が出ると知って読まずにはいられなかった。

超訳

自分の中で活かすことができるためには、自分なりの理解=超訳としておかなければならない。本書はスキーマという認知科学で知られている概念を切り口に、効果的な英語の学習法(とその裏にある理屈)を展開している。超訳すると

  1. 英語を使うとき、日本語スキーマが邪魔するせいで英語ができない(=英語スキーマが出来上がっていない。)
  2. 英語ができるという状態は、英語のスキーマができている状態である
  3. スキーマずれを自らが認識するとき、人は一番学ぶ

さらに要約すれば、英語スキーマをなんとかして作ろう、という言葉に尽きるか。ただ、これじゃあ、英語ができるようになろうと言っているのと同じなので、認知科学の知見から分かる効率的な英語学習方が書かれている。*1

知ってよかったことなど

認知科学についてはわりと明るいので、認知科学の言葉で英語ができることとはどういうことか語られていて、自分としては思考が整理されたように思う。もちろんツールという意味ではSKELLを知れただけでも儲けもんだった。COCAとかは知っていたのだけど。SKELLはもっと軽い気持ちで使えそうなところがいい。とりあえずAnkiのデッキに、カードの単語を検索するSKELLのリンクを追加して、気になったタイミングでアクセスできるようにしてみた。

一つ疑問だったのは、SKELLが紹介されて、シソーラスといった辞書の話が出てこないというのは何故なのか、という点。Oxford Learner's Thesaurusなんか、SKELLで実現したいことを同様に果たせるとうに思うのだけど。SKELLの方が例文も多いしWebの力をふんだんに利用できるから、わざわざシソーラスに触れる必要はないということなのかな。ちょうど物書堂さんからOxford Learner's Thesaurusが出て買ったところ(本はすでに持っていた。)なので、シソーラスが触れられていない理由が気になった。

ただ、単に紙面の都合、ということなのかなと思われる。一般的な意味で「辞書」という言葉は登場しているし、スキーマのずれと、その解消という原理原則を理解してもらえれば、シソーラスでもSKELLでも好きなもの使ってくれ、ということなのだろう(し、理屈さえ押さえれば、必ずしも本書の勉強の則る必要はないと書いてあった。)

また、どのレベルを目指す人向けに書かれているのか名言されている点も、真摯だなぁと思わずにはいられなかった。

本書は主に、仕事の場でアウトプットできるレベル、すなわち自分の考えを的確・効率的に表現し、相手に伝えられるレベルの英語力を目指す人に向けて書かれている。(p.15)

あとは、英語が流暢であっても、話す内容に中身がなければ意味ないから、といった考えは、研究者だなぁと共感してしまった。(実力のある大御所日本人が私より下手な英語で発表をしても、中身があるからみんな必死で聞くんだよね。もちろん、もうちょっと英語ができることに越したことはないのだろうけと。)

そのほか、映画を使った学習法は、ほとんど同じことをやろうやろうと思っていてやらずじまいだったので、この本で後押しされたことにして取り掛かりたい。Netflixはclosed captionが尋常じゃないほど充実しているし、何よりLanguage Learning with Netflixとかいうchromeの神extensionがあるのが心強い。

最後に

認知科学に割と明るく*2て、英語学習について悩んでいる人は是非とも読むべき一冊だった。

*1:英語完全上達マップみたいに、この本をこのやり方で何周しろ、みたいな具体的なことは書かれていない。

*2:スキーマ」がなんだかなんとなく理解しているくらい。もちろん、スキーマを知らなくても、この本は読めるようになっています。